「地獄へ行く道」あるいは天国へのきざはし #legalAC

 

 このエントリーは、2023年の法務系アドヴェントカレンダー #legalAC 参加エントリーです。表のトリを務めさせていただきます。  

天国へ行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである

マキアヴェッリ『手紙』、塩野七生マキアヴェッリ語録」など)

 

 今年も、という言い方は変だが企業不祥事のニュースが多い1年だった。中古自動車販売業や大手芸能事務所(一応株式会社)が代表的なものだ。この2社は皆さんが手に取ったことがある江頭「株式会社法」において、

上場会社とは違った生きものであり、かつ一つ一つが相当に個性的な生きものであることを認識して法を適用する必要がある  江頭憲治郎「株式会社法

と記載されている「閉鎖会社」である。

 公開だ、閉鎖だというのはあくまで会社法上の話であり現実の企業間の商取引で取引先のことを自社とは違う生きもの、個性的な生きものだと区分することはないだろう。しかし、今回は閉鎖会社の事業運営や企業統治のあり方によって生じたことに公開会社が振り回されたかたちになっていると思う。中古車販売会社にケースでは損害保険会社が、芸能事務所のケースではマスメディア各社である。日本を代表するような企業が対応に追われ、その対応の巧拙についてあれこれと取沙汰された。相当規模の公開会社であれば、こちらが羨むような法務や内部監査の体制を敷いているとは思うが、それも限界があるということなのか、そのような企業であっても法務や内部監査の牽制機能がはたらくことが難しいということなのだろう。

 センセーショナルな事件ばかり話題になったが、『第三者委員会ドットコム』というサイトには2023年は40件ほどの公表ずみ第三者委員会報告がアップされている。年末に入り話題となっている自動車メーカーの報告以外は公開会社のものである。毎日どこかの企業が設置した第三者委員会が活動をしているといってもよいかもしれない。

 公開会社であろうとそうでなかろうと、企業の事業活動を生身の人間が行う以上、不正や不適切行為を完全に防止することはできない。だが内部統制構築義務を負わないがゆえに内部管理業務に割くコストが十分でないか、またはあえてコストをかけない閉鎖会社が事件を発生させるのと、相応のコストをかけ「コーポレートガバナンス」なるものが構築されているはずの公開企業の不祥事と、一体どちらが筋が悪いだろうか。第三者委員会を速やかに設置し調査を実施し公表を行うということもガバナンスのひとつだといわれればそれまでだが、そもそも「できていない」ことをさも「できている」かのように装っているのはどうなのか。かつてコーポレートガバナンストップランナーのように扱われていた電機メーカーが上場廃止を迎えた今、余計にそう思う。

 前置きが長くなった。

 内部監査部門との対比でいえば、法務部門はビジネスの執行側と自分は考えている。企業規模が大きく法務の陣容が相当規模であれば、例えば事業部門側法務、商事法務、コンプライアンスと役割を分けることができるだろうし、実際そのような企業もあるだろう。事業部門に寄り3ラインモデルでいうところの1stと2ndの中間に位置する法務担当者が既にいるかもしれないし、またその領域を目指す法務担当者がいてもおかしくはない。事業と法が密接にかかわる業界もある。

 仮にその位置を1.5ラインと呼ぶとして、そこにいる法務担当者は2ndラインの法務よりもときに難しい立場に身を置くことになるかもしれない。かなり端折っていえば、事業活動のなかにいながら、急ブレーキをかけることができるかということである。急ブレーキをかけることで、自分を含む事業メンバーのキャリアに少なからず影響を及ぼす可能性があったとしても、だ。

 「第三者委員会調査報告書」の登場人物(調査対象者)は、普通に企業に勤務する人々である。ほとんどの人は入社時に不正行為を働いて金儲けをしようとか、都合の悪い検査データを偽装すればいいと思っていたわけではない。所属企業(部門)の状況と自分が置かれた立場や何やらで本道から逸れていかざるをえなくなったのである。ビジネスの現場は単純明快な世界ではないし黒白がはっきりしている世界でもない。法務担当者といえども、ビジネスサイドに寄れば寄るほど不正行為に触れる、関わる機会が増え、そして下手をすれば第三者委員会の調査対象となる可能性が高くなると思う。「自分に限ってそんなことはない」はないと思ったほうがよい。

 だからといって法務担当者はビジネスサイドに寄らないほうがよい、寄るべきではないというつもりはない。ただ自分ではどういっても陳腐な言葉の羅列になってしまう。そこで冒頭のとおりマキアヴェッリの言葉を引用した。どのような背景や状況下でマキアヴェッリがこの言葉を残したのかは不明、彼の真意も明らかではない。この引用が適切かもわからない。

しかし、企業不祥事が次々と明るみになる昨今、ビジネス領域に進んでいこうという法務担当者に送るとしたら、自分のなかではこの言葉なのである。