ラストライン 2024

 やや遅くなったが定点観測エントリー。

 先日、今年度の入社式に出席した。来賓という扱いには苦笑いするしかない。今年は出席することはないと思っていたのだが、少し事情が変わった。

 もはや自分の入社式のことなど記憶の遥か彼方、当日何を思い何を決心していたのやら。ただ研修寮の部屋で同期と「会社員になっちゃったな」とぼやきながらビールを飲んでいたことがぼんやりと思い出される。

 入社式終了後の新入社員との食事会で、18、19歳の社員と話したけれども、親子以上の年齢差を埋める話題はなく、ただ頑張れよ、同期の仲間を大事にしなよ、というのが精一杯であった。

 年金制度やら何やらで、ゴールラインの位置が曖昧になっているが勤務先の制度上のとりあえずのゴール位置は明確で、ゴール後は雇用条件を変えて職場に残るか、それとも別の道を選ぶかである。結論を出すまでの時間はそう残っているわけではない。

 現職で思い残すことややり残したことがないわけではない。ただそれにこだわり職場に居続けたとしても、企業が進もうとする方向によっては従事することはないかもしれないし、自分のこだわりが後任の業務の妨げになっては意味がない。それこそ老害にほかならないし、そんなことは自分は望まない。もっとも残るにしてもまず組織から望まれての話。とはいえ望まれることの中身が自分の希望と明らかに食い違ったときに、はたして受け容れることができるかどうか。

 やはりこの年齢でも選択肢を増やすことはしておかなければならないだろう。

 などと考えても生物個体として生き続けていくことが大前提。今年の初めに年齢が近いメンバーを病で失ってから、その思いが強くなってきている。

 当面ゴールの位置など気にせず走り続ける(歩き続ける、か)こと。

今自分がやることはこれかもしれない。

 

 

                   

 

 

 

 

製造業勤務なら一読あれ バリューチェーン別製造業の会計監査実務ハンドブック

バリューチェーン別 製造業の会計・監査実務ハンドブック

 

 内部監査業務を担当するようになって5年経とうとしている。内部監査といっても、それまでに社内に知見や蓄積がなかったので(ない、というわけではなかったがだいぶ世間でいう内部監査とかけ離れているシロモノ)手探りで進めているうちに時間だけが経過してしまったというのが正直なところである。手当たり次第、といっても法務や財務会計と比較すると参考書籍の類も少ない。CIA(公認内部監査人)の国際フレームワークやテキストを読んでも、こちらの圧倒的鵜実力不足もあってか活かし方がわからない。なのでここしばらくは『内部管理の実務』シリーズ(中央経済社 東陽監査法人編)などを参考にする機会が多かった。業務プロセス別の編集ということもあって多様な業種の最大公約数的な内容であることは否めなかった。

 そんなところ、今年1月に刊行されたのが本書『バリューチェーン別製造業の会計監査実務ハンドブック』(中央経済社 有限責任監査法人トーマツ著)である。対象読者はまず監査人(公認会計士)であることは明らかなのだが、製造業企業に勤務する財務、経理、法務、内部監査担当者が手元に置くべき一冊だと思う。列挙した業務従事者は自部門の業務はきっちり務めることは間違いないが、必ずしも製造から販売に至るプロセスすべてに通じているとは限らない。本書で取り上げられている論点は法務部門が契約書レビュー時に確認すべき点かもしれないし、製造部門(工場)の責任者に任命された者が改めて業務の責任範囲を確認する際に参考になるかもしれない。異業種から転職してきた管理部門担当者にまず読んでもらうテキストにしてもよいかもしれない。

 要するに自分が待ち望んでいた書籍なのである。会計、監査の本と片付けるのではなく、製造業勤務の中堅社員以上は一読することを薦めたい。

 

 

 

 

 

逃げる2月 (備忘録)

 時間がどんどん過ぎてゆく。と、いうことで2月の備忘録。

 まず仕事面。

 1. 工場部門にかかわる監査業務中心。

 2. 次世代監査担当者探し

1. は詳細は書けないが、業務手続の確認を数点。ひとつは取引先にも出向いた。

 監査作業中に生じた疑問が理由。コロナ禍以降、リモートで大部分の仕事が捌ける  ようになったものの、出張などの移動時間を費やしたとしても現地に出向いたほうが最終的には「速い」ということがある。

現地現物確認の原則どおりといえばそのままだが実行するかしないかで「しない」を選ぶ理由は、やはりないのだ。

2. はここ数年でもっとも困難な課題である。

 10数年前の組織再編や数年前の本社移転の余波もある。流れ出た人材の顔を思い出す。思い出したところで何の役にも立たないのだが。

 管理部門の「隠居場所」という時代が長かったためか、監査担当者を育成するという視点が社内で十分醸成されていないこともある。コーポレートガバナンスや内部統制改訂基準で内部監査の役割を格上げされても、急に追いつくことはできないというのが本音。とはいえ、自分のラストラインを考えると言い訳ができるものでもない。

 

次に私生活。

 月初に受診した人間ドックの結果を見ながら、どこかのタイミングで専門医の診察を受けるようだろう。節目の年齢ということをいやでも意識せざるを得ない。

 積読の解消も進まないまま、この数日で書籍を買い込む。某書籍の在庫についてリアル書店のほうが強いときもあるのだなと思う。

 

 

 

 

 

どこからどこへ 2023→2024

 (不)定期エントリー。毎年末、ちゃんと書いていた時期もあるのだが。

 

 新年早々の災害や重大事故でどのような感情をもてばよいのか当惑しているまま迎えた3日の夕刻、一昨年の秋から闘病を続けていた部下が力尽きたとの連絡が入る。無念の一言しかない。

 それでも時間は進む。できることをやるしかない....

 とはいうものの、「どこへ」の行先だけでなく、自分で選ぶことができる範囲も狭まっているのも変えようがない事実で、さてどうしたものか。

 現職での新年度の計画については経営トップとおおむね目線合わせをした。しかし新年度途中で迎える年齢的な区切りとその先についての話は進めていない。

 これから今の職場で見たい風景もある。しかし自分の気持ちがそのまま組織に容れられるかは別の話であるし、ここまでの道のりをあれこれ考えると、今の場所こだわらなくてもいいのでは?という気持ちがゼロというわけでもない。

 暖かい季節が来るまでに気持ちを固めておく、ということか。

 

 こんな体たらくであるが、今年はもう少し更新頻度を上げ語りたいことは語っておこうと思うので、よろしくお願いいたします。

 

 

「地獄へ行く道」あるいは天国へのきざはし #legalAC

 

 このエントリーは、2023年の法務系アドヴェントカレンダー #legalAC 参加エントリーです。表のトリを務めさせていただきます。  

天国へ行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである

マキアヴェッリ『手紙』、塩野七生マキアヴェッリ語録」など)

 

 今年も、という言い方は変だが企業不祥事のニュースが多い1年だった。中古自動車販売業や大手芸能事務所(一応株式会社)が代表的なものだ。この2社は皆さんが手に取ったことがある江頭「株式会社法」において、

上場会社とは違った生きものであり、かつ一つ一つが相当に個性的な生きものであることを認識して法を適用する必要がある  江頭憲治郎「株式会社法

と記載されている「閉鎖会社」である。

 公開だ、閉鎖だというのはあくまで会社法上の話であり現実の企業間の商取引で取引先のことを自社とは違う生きもの、個性的な生きものだと区分することはないだろう。しかし、今回は閉鎖会社の事業運営や企業統治のあり方によって生じたことに公開会社が振り回されたかたちになっていると思う。中古車販売会社にケースでは損害保険会社が、芸能事務所のケースではマスメディア各社である。日本を代表するような企業が対応に追われ、その対応の巧拙についてあれこれと取沙汰された。相当規模の公開会社であれば、こちらが羨むような法務や内部監査の体制を敷いているとは思うが、それも限界があるということなのか、そのような企業であっても法務や内部監査の牽制機能がはたらくことが難しいということなのだろう。

 センセーショナルな事件ばかり話題になったが、『第三者委員会ドットコム』というサイトには2023年は40件ほどの公表ずみ第三者委員会報告がアップされている。年末に入り話題となっている自動車メーカーの報告以外は公開会社のものである。毎日どこかの企業が設置した第三者委員会が活動をしているといってもよいかもしれない。

 公開会社であろうとそうでなかろうと、企業の事業活動を生身の人間が行う以上、不正や不適切行為を完全に防止することはできない。だが内部統制構築義務を負わないがゆえに内部管理業務に割くコストが十分でないか、またはあえてコストをかけない閉鎖会社が事件を発生させるのと、相応のコストをかけ「コーポレートガバナンス」なるものが構築されているはずの公開企業の不祥事と、一体どちらが筋が悪いだろうか。第三者委員会を速やかに設置し調査を実施し公表を行うということもガバナンスのひとつだといわれればそれまでだが、そもそも「できていない」ことをさも「できている」かのように装っているのはどうなのか。かつてコーポレートガバナンストップランナーのように扱われていた電機メーカーが上場廃止を迎えた今、余計にそう思う。

 前置きが長くなった。

 内部監査部門との対比でいえば、法務部門はビジネスの執行側と自分は考えている。企業規模が大きく法務の陣容が相当規模であれば、例えば事業部門側法務、商事法務、コンプライアンスと役割を分けることができるだろうし、実際そのような企業もあるだろう。事業部門に寄り3ラインモデルでいうところの1stと2ndの中間に位置する法務担当者が既にいるかもしれないし、またその領域を目指す法務担当者がいてもおかしくはない。事業と法が密接にかかわる業界もある。

 仮にその位置を1.5ラインと呼ぶとして、そこにいる法務担当者は2ndラインの法務よりもときに難しい立場に身を置くことになるかもしれない。かなり端折っていえば、事業活動のなかにいながら、急ブレーキをかけることができるかということである。急ブレーキをかけることで、自分を含む事業メンバーのキャリアに少なからず影響を及ぼす可能性があったとしても、だ。

 「第三者委員会調査報告書」の登場人物(調査対象者)は、普通に企業に勤務する人々である。ほとんどの人は入社時に不正行為を働いて金儲けをしようとか、都合の悪い検査データを偽装すればいいと思っていたわけではない。所属企業(部門)の状況と自分が置かれた立場や何やらで本道から逸れていかざるをえなくなったのである。ビジネスの現場は単純明快な世界ではないし黒白がはっきりしている世界でもない。法務担当者といえども、ビジネスサイドに寄れば寄るほど不正行為に触れる、関わる機会が増え、そして下手をすれば第三者委員会の調査対象となる可能性が高くなると思う。「自分に限ってそんなことはない」はないと思ったほうがよい。

 だからといって法務担当者はビジネスサイドに寄らないほうがよい、寄るべきではないというつもりはない。ただ自分ではどういっても陳腐な言葉の羅列になってしまう。そこで冒頭のとおりマキアヴェッリの言葉を引用した。どのような背景や状況下でマキアヴェッリがこの言葉を残したのかは不明、彼の真意も明らかではない。この引用が適切かもわからない。

しかし、企業不祥事が次々と明るみになる昨今、ビジネス領域に進んでいこうという法務担当者に送るとしたら、自分のなかではこの言葉なのである。

 

『泳ぐ者』 予断がまねく苦さ

今回のネタは『泳ぐ者』(青山文平 新潮社)

 新刊ではない。単行本は2021年3月刊。この秋文庫化された。前blogで前作にあたる『半席』を取り上げたのが2019年2月。その2か月後に監査業務に主軸を置くようになった。今思えば不思議なタイミングだと思う。

 時代小説(時期は幕末近く)だがミステリー仕立て、主人公は徒目付(監察、内偵の役目)である。やや監査部門の仕事に似通っている。主人公の徒目付としての成長譚の形をとるが、前作が連作だったのに対して本作は長編である。プロローグ、タイトルの事件、エピローグという構成。ネタばれを避けるが、タイトルの事件の経験を通じてプロローグの事件を省みる流れ。タイトルの事件は、今でいうハラスメント行為が発端の悲劇なのだが、偶然事件の当事者にかかわりあってしまった主人公が当事者の姿に疑問をもち真相を探り事件の「本当のこと」に辿り着くというのがストーリーである。本来ならここで落着してもよいのだが、再びプロローグの事件に戻り己のしたことを省みる。主人公が最後にかみしめる苦さに共感したのは今の自分の職種のせいだろうか。

 自分の仕事は予断とひとりよがりな理想主義、過剰な正義感は禁物である。これらに取り込まれてしまえば、見るべきものの発見、聴くべき話に辿り着けず、事実を積み重ねることができない。また仮説と予断は異なるということも意識しなければならない。

 そんなことを改めて感じさせた一冊である。

 なんでも仕事に結びつけてしまうのは悪い癖だ。

 時代小説として楽しめる一冊であることはいうまでもない。興味があればどうぞ。

泳ぐ者(新潮文庫)

 

 

拾い読み『ビジネス法務 2023年12月号』から

 実に久しぶりの『拾い読み』である。ビジ法をゆっくり読むのが久しぶり、ということもある。

 久々に読んだ理由は特集記事「製造物責任法(PL法)の最新実務」である。製造業勤務としてはこのネタは外せない。なぜこの時期なのか、11月は「品質月間」だが、これと関係あるのだろうか。

 それはさておき。拾い読みの感想。

【1】PL法関連で法務が関わる(関わることができる)仕事とは何か

①開発、設計、製造、検査に関わる業務

 あきらかに畑違い。

②(PL法上の)指示/警告表示に関わる業務

 取扱説明書、保証書、販促物の内容審査ルートに法務が入っていれば可能。ただし、相応の製品知識や周辺知識がないと字句の修正だけの役割で終わってしまう。

リスクヘッジ

 自社のPL法上の責任(特に損害賠償責任)の軽減、回避策

④有事対応  

 残念ながらPL法対象の事態が発生した場合の諸々。

 現実的には③④だろう。③は本誌の「BtoB部品取引契約におけるPLクレームへの備え」(丹下貴啓氏の稿)が部品の売主企業にとって参考になるだろう。隙のない契約書作成、契約交渉を行うには、クレーム対応の経験を積んだほうがより「現実的な」対応ができるとは思うが、法務人材の育成には様々な考えがあるだろうから一概にいえない。クレーム対応業務を直接担当しないまでも「クレーム情報」が現場部門から法務部門に必ず共有されるフローが運用されていれば、法務担当者もある程度勘どころが養われる、とは思う。モノづくりはもともとそうだが、法務の契約交渉、契約書作成の仕事にとっても「クレーム」は情報の山、ともいえる。

 契約書が隙のないものであっても、生産や品質管理の実態が伴わなければ意味がない。契約書の内容を生産部門や品質管理部門によくよく理解しておいてもらう必要もある。特にゲートキーパーである品質管理部門と法務部門の距離は短くしておいたほうがよいと思う。

④の有事対応は、昔実際に追われたことがある。同時多発的に対処しなければならない事象がふりかかる。「品質不良、欠陥の判明時における有事対応」(小森悠吾弁護士稿)の冒頭にあるように、法務部門はただ自社の「法的責任」云々の検証業務だけでなく、事務局的な役割を担うのがモアベターではないかと思う。冷静な「誰か」が必要なのだ。

 諸々あるなかで「社外対応」を軸に諸々の事象を捌いていくことが求められる。「記者会見」はレアだとして、プレスリリース(「レク付き」は規模の小さな会見ともいえるが)に留める場合でもリリース当日には、社内外のすべての対応体制が整っていなければならない。例えば、リリース時間と同時にWebサイトに同内容をアップする、コールセンターの受付をスタートするなど。(多様な情報をさばいていくのは法務部門は得意ですよね?)

本稿だけでなく一時期盛んに話題になった「危機管理広報」関連の書籍や記事も合わせ読むことをすすめる。

④は経験しないことに越したことはない。そのための②や③だが、それでも起きるときは起きる。起きてほしくないことのために今何ができるか、ということを自身や組織に問いかけ続けるということかと思っているが、製造業の法務のしんどいところでもある。

【2】新しい「潮流」

 水野祐弁護士の「AI製造物に関する責任と『修理する権利』」。AIを利用した開発設計や製造という行為は今後増えていくだろうから、責任の範囲が拡張されていくというのは理屈としてはわかる。ほぼ製造事業者を対象にした現行PL法もそう遠くない時期に改正することになるのだろうか。

 「修理する権利」。こちらも理屈としてはあるだろうとは思う。ただ「修理する権利」以前に、ユーザーが所有、使用している製品を「点検する義務」が制度として根付かなかった顛末をみてきた身としては、日本においては検証を重ねる必要があると思う。

久々なので、こんなところで。

次回も読書感想文で。「泳ぐ者」(青山文平)の予定。