拾い読み『ビジネス法務 2023年12月号』から

 実に久しぶりの『拾い読み』である。ビジ法をゆっくり読むのが久しぶり、ということもある。

 久々に読んだ理由は特集記事「製造物責任法(PL法)の最新実務」である。製造業勤務としてはこのネタは外せない。なぜこの時期なのか、11月は「品質月間」だが、これと関係あるのだろうか。

 それはさておき。拾い読みの感想。

【1】PL法関連で法務が関わる(関わることができる)仕事とは何か

①開発、設計、製造、検査に関わる業務

 あきらかに畑違い。

②(PL法上の)指示/警告表示に関わる業務

 取扱説明書、保証書、販促物の内容審査ルートに法務が入っていれば可能。ただし、相応の製品知識や周辺知識がないと字句の修正だけの役割で終わってしまう。

リスクヘッジ

 自社のPL法上の責任(特に損害賠償責任)の軽減、回避策

④有事対応  

 残念ながらPL法対象の事態が発生した場合の諸々。

 現実的には③④だろう。③は本誌の「BtoB部品取引契約におけるPLクレームへの備え」(丹下貴啓氏の稿)が部品の売主企業にとって参考になるだろう。隙のない契約書作成、契約交渉を行うには、クレーム対応の経験を積んだほうがより「現実的な」対応ができるとは思うが、法務人材の育成には様々な考えがあるだろうから一概にいえない。クレーム対応業務を直接担当しないまでも「クレーム情報」が現場部門から法務部門に必ず共有されるフローが運用されていれば、法務担当者もある程度勘どころが養われる、とは思う。モノづくりはもともとそうだが、法務の契約交渉、契約書作成の仕事にとっても「クレーム」は情報の山、ともいえる。

 契約書が隙のないものであっても、生産や品質管理の実態が伴わなければ意味がない。契約書の内容を生産部門や品質管理部門によくよく理解しておいてもらう必要もある。特にゲートキーパーである品質管理部門と法務部門の距離は短くしておいたほうがよいと思う。

④の有事対応は、昔実際に追われたことがある。同時多発的に対処しなければならない事象がふりかかる。「品質不良、欠陥の判明時における有事対応」(小森悠吾弁護士稿)の冒頭にあるように、法務部門はただ自社の「法的責任」云々の検証業務だけでなく、事務局的な役割を担うのがモアベターではないかと思う。冷静な「誰か」が必要なのだ。

 諸々あるなかで「社外対応」を軸に諸々の事象を捌いていくことが求められる。「記者会見」はレアだとして、プレスリリース(「レク付き」は規模の小さな会見ともいえるが)に留める場合でもリリース当日には、社内外のすべての対応体制が整っていなければならない。例えば、リリース時間と同時にWebサイトに同内容をアップする、コールセンターの受付をスタートするなど。(多様な情報をさばいていくのは法務部門は得意ですよね?)

本稿だけでなく一時期盛んに話題になった「危機管理広報」関連の書籍や記事も合わせ読むことをすすめる。

④は経験しないことに越したことはない。そのための②や③だが、それでも起きるときは起きる。起きてほしくないことのために今何ができるか、ということを自身や組織に問いかけ続けるということかと思っているが、製造業の法務のしんどいところでもある。

【2】新しい「潮流」

 水野祐弁護士の「AI製造物に関する責任と『修理する権利』」。AIを利用した開発設計や製造という行為は今後増えていくだろうから、責任の範囲が拡張されていくというのは理屈としてはわかる。ほぼ製造事業者を対象にした現行PL法もそう遠くない時期に改正することになるのだろうか。

 「修理する権利」。こちらも理屈としてはあるだろうとは思う。ただ「修理する権利」以前に、ユーザーが所有、使用している製品を「点検する義務」が制度として根付かなかった顛末をみてきた身としては、日本においては検証を重ねる必要があると思う。

久々なので、こんなところで。

次回も読書感想文で。「泳ぐ者」(青山文平)の予定。