読むべきは 問われるべきは 「Q&A 若手弁護士からの相談199問 特別編」

 開店休業なのかただの休業なのか、かなり間の空いた更新となってしまった。この間、新型コロナに感染し熱が下がったあともモヤモヤとした体調が続いていたのだが、言い訳にもならない。

 今回は春先に自分の周囲で話題になっていた書籍「Q&A若手弁護士からの相談199問 特別編」の読後感。

 弁護士でもなく、若手でもない(匿名をいいことに自称するのももはや無理)ので、「若手弁護士からの相談」シリーズを手に取ることはなかったが、本書は旧知のdtkさん(@dtk1970)が執筆陣に加わり「企業法務/キャリアデザイン」が章立てに追加されたというので読んでみた。本書の各問答に対する細かな感想は既に経文偉武さんが書かれているし、聴取できなかったが#萌渋スペースでも取り上げられていたので今更感満タンなのだが第2編の感想を中心に書き留めておく。企業内の「法務部門ではない」人間が、本書を通じて企業法務部門とその若手をどう見たのかと受け流していただければと思う。

 企業勤務の「若手」法務パーソンのアプローチブック、組織で「生きるヒント」としては十分の内容、というのが第一の感想。同時に本書とはまったく毛色が異なるし執筆陣が気を悪くするかもしれないが「希望の法務」の読後感に似た感覚を抱いた。

 初めて企業法務に勤める弁護士、ロー卒(つまり年齢は新卒より上だが、会社員経験がない人)、そして企業勤めは初めてではないが「法律を徹底的に学んできた」という略歴からいきなり法務部門の「中間管理職手前」あたりのポジションにつけられた30代(自分からみれば眩いくらいの若手)にとっても、企業組織というのは摩訶不思議な世界だと思う。リーガルの「リ」の字すら気にかけない営業部門の猛者、稟議と決裁のエンドレスループトップダウンならまだしも横槍、突き上げなど事務規程に定めのない意思決定など。そんな組織のなかでどのように立ち回り、自らまたは自部門の存在価値を高めていくかがQ&Aのかたちで展開されている。ときに執筆陣の強い思いが透けてみえる記述もあるのだが、それはそれでよいと思う。回答にしっくりこないというのであれば読者自ら考え実践すればよいし、そもそも本書の読者層はそれだけのスキルをもっているし、そういう方は本書は「生きるヒント」として使えばよいと思う。

 もうひとうの感想。

 気になったのは「現場で相談しづらい問題」「対人関係」の問題という本書の帯の文言である。たしかに第2編の各問答はよく練られた内容と思う一方で、それらがみな「現場で相談しづらい」問題なのかと思う。もし、第2章2-1~3の各設問が職場でほんとうに「相談しづらい」状況にあるなら、(現在の自分の職務なら)部門運営に懸念がある職場とフラグを立てる。独立した法務部門なら部門長、そうでなければ管轄する上位上長が新人やキャリアの「受け入れ態勢」を整えていない可能性があるからだ。

また、2-5~6については「法務部門」に限らない「普遍的な」問題といえる。法務部門を設立したり拡大していくなかで、「専門職」「個人営業的」だった法務部門が、事業や販売部門など他の部門と同様の課題を抱えつつあることの現れとみたのがどうなのだろう。

 企業法務部門の上位管理職は企業内でどのようなマネジメント教育を受けてきたのだろうか。もしかしたら法曹資格保有、ロー卒という点が重視されて管理職になった人がいるかもしれない。そのなかには部門運営や人材育成が本当は苦手という人がいるかもしれない。本書はそのような人にとって「逆引き」ヒント集として読まれてもよいと思うし、もし自分の部下/メンバーが本書を読んでいることを知ったなら、自分のマネジメントに何か不足があるかも?と気づいたほうがよい。読むべきは?問われるべきは?本当は誰なのか、ということである。

 最後に今は「若手」の法務パーソンもいつかは部門を預かる(現在勤務中の企業とは限らないが)法曹資格のある人は独立して事務所を構えるという未来があるだろう。そのときに悩み迷って本書を手に取った若手だった自分のことを忘れないでいただきたいと思う。