ひとり法務 法務のひとり ひとりの法務

  本を読むのが遅いので、今頃になっての感想。
 『情報収集力とコミュニケーション力で確実に進めるひとり法務』(飯田裕子著 同文館出版)。自分は想定読者層から大きく逸れているので感想もずれるかもしれないが、読んだ記録として。

 ここ数年、企業法務の在り方についていろいろな論があるのは承知している。大上段から振りかぶったというか妙に気張っているといおうか。それらの論が実直に企業法務実務に取り組んでいる若い世代が悩み求めているものに応えることになっているのか正直疑問であった。

 そんなところに登場したのが本書である。

 自分自身、ひとり法務兼その他諸々を10年以上務めたのだが、法務異動直後の引継ぎといえば冗談抜きに書類の袋綴じぐらいだった。異動した2006年当時に本書があったならと思わずにいられない。

 自分が本書を推すのは、ここに等身大の若手担当者の姿があるからである。実直に業務に取り組み、自身の社内での立ち位置を築き上げていった足取りの素直な記録だと思う。シンプルかつポジティブに書かれた裏に、並大抵でない苦労も重ねたと思う。そうでなければ、こんなにやさしい語り口にはならない。

 完全なひとり法務体制以外でも、上司や周囲と円滑な関係を築くのに苦労している若手担当者は多いと思う。彼ら彼女らにとって必要なのは攻めだの守りだのといった「あるべき論」ではない。目の前にある契約書の山であったり、わけのわからない依頼や苦情を持ち込む事業部門の担当者をどう捌いていくか。それにはどんな方法があるのか、どうすれば自分のいうことを相手に理解してもらえるか、といった諸々に応じたヒントであり成功事例である。

 自分のようなロートルの目からみると、書かれていることはやって当たりまえのことも含まれる。だが当たり前のことをやり続けるほど難しいことはない。やさしい語り口で教えてくれているが、本当に全部実行し続けようとしたらけっこうハードな日々になると思う。でも@法務のいいださんはやってきているのだ。これ以上の説得力はない。

 書名が『ひとり法務』となっているので、もしかしたら大規模法務に所属する若手担当者が自分には関係ないと思っていたとしたらもったいない。

 事業部門との関係もさほど苦労していない。しかし、それは若手のあなたを信頼信用してということだろうか。先輩上司が築いてきた「法務部」の看板があるからではないか。教育育成体制が整っている。でもそれは最新のビジネス事情を反映したものになっていないかもしれない。先輩の人数が多くてなかなか自分がやりたい仕事が回ってこない等等。では、どうする? 最終的に問われるのはあなたの「ひとりの法務」としての存在になる。そのヒントも埋まっている書籍だと思う。(既に読まれている方も多いと思うが念押し)

ひとり法務